「懐石料理」のイメージは、イタリアンやフレンチのように高級な料亭で楽しむイメージが強いですよね。
実は茶道でも「懐石料理」は楽しむことができます。
茶道初心者にとっては、まだ食べたことがない方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし急に茶事に招待されたり懐石料理を食べる場面では、作法や意味が分からず慌ててしまうかもしれません。
そういったことを防ぐためにも、この記事では茶道に出てくる「懐石料理」について紹介していきます。
今回も3つのポイントに絞っています。
それでは伝統的な懐石料理について、一緒に勉強していきましょう。
強肴とは?どんな意味?
「強肴」とは茶懐石において出される料理の一種です。
名前からは想像できないかもしれませんが、強肴はお酒を楽しむための料理です。
居酒屋で出てくる「突き出し」「お通し」に近いですね。
お通しと聞くと、簡単なメニューのように感じます。
しかしそこは茶懐石、小さなところまで「おもてなし」の心があります。
茶事で頂く「八寸」「箸洗い」といった基本的なメニューの他に、亭主が「さらにもう一品進める」という意味でお客様にお出しするものです。
強肴の読み方は「しいざかな」
強肴は「しいざかな」と呼ばれています。
「強」は「強いる」(しいる)というように、何かを強制させる意味があります。
これは茶席の意味に置き換えると、お客様に強制させて楽しませるという意味になってしまいます。
これではおもてなしの意味がありませんよね。
実は「強」にはもう一つの意味があり「勢いをつける」という意味もあります。
先ほど説明したように強肴はお酒と一緒に楽しむ料理です。
強肴があることによってお酒が進み、その場がより明るく楽しくなるという意味なら「おもてなし」の意味にも合いますね。
▼懐石料理の作法について紹介してます
肴の意味・読み方とは?
「肴」という漢字も、今ではあまり見ることがありません。
読み方は「さかな」ですが、海にいる魚とは違います。
肴はお酒に合う料理という意味があり、もともとは「酒菜」(さかな)と書かれていました。
一汁三菜と同じですね「菜」はおかずという意味です。
少し笑える話になってしまいますが「魚」がお酒によく合う「肴」になる場合もありますよね。
ただ「肴」という漢字自体に「お酒によく合うおかず」という意味があるので、よく居酒屋などで使われる「酒の肴」というのは、お酒のお酒のおかずという意味になってしまいます。間違えないように気をつけましょう
ちなみに「つまみ」「アテ」も同じ意味になります。
つまみはお酒と一緒に片手でつまめる料理、アテは近畿地方で使われる方言で「お酒にあてがう料理」という意味があります。
合肴
ここからは様々な「肴」を紹介していきます。
「合肴」は「あいざかな」と読み、焼き物と煮物を出す間に蒸し物や揚げ物を出すときに使われる言葉です。
懐石料理は色々な調理法があり、お客様には全てを楽しんでもらうように考えられています。
焼き物と煮物は「火と水」という対照的な料理方法であり、流れを重視するために合肴が出されていそうですよね。
料理方法 | 焼き物 | 揚げ物 | 蒸し物 | 煮物 |
---|---|---|---|---|
水分量 | 火がメイン | 火は間接的 | 蒸気を利用 | 水がメイン |
こういった料理の考え方は、中華料理やフレンチのコースでも見られます。
形や作法は違いますが、相手をもてなしたいという気持ちは全世界共通ですね。
進肴
「進肴」は「すすめざかな」と読みます。
茶懐石は強肴や一汁三菜のほかに「箸洗い」「八寸」といった料理も出されますが、それ以外の珍しい料理のことを指します。
特に「進」にはお酒を進めるという意味がありますので、強肴のようにお酒のお供と考えても問題ありません。
鉢肴
「鉢肴」は「はちざかな」と読みます。
鉢に乗せられた肴や、懐石料理では焼き魚を指すこともあります。
特に重要なのは「鉢」という意味です。
懐石料理は「目で楽しむ」という言葉もあるくらい、見た目も重要視されています。
盛り付けはもちろん、器は料理の着物という言葉もあるくらい重要です。
茶道に出てくる器は楽茶碗が一般的ですが、当然懐石料理でも素敵な器が使われています。
もしあえて目立つ鉢に料理が盛り付けられていたら、料理だけではなく鉢も楽しむようにしましょう。
お客様が亭主の心を読み取れてこそ、真のもてなしと言えます。
取肴
「取肴」は「とりざかな」と読み、三度目に出すお酒と一緒に出される料理です。
三度目というと大分お酒がまわっており、緊張感もほぐれて楽しい気分になっている頃です。
取肴は進肴のように、主人自ら材料を得たものや遠い地域にある珍しいものを使った料理を出します。
今のように交通やインターネットがなかった時代は、異国の話だけでも珍しいものでした。
きっとお酒を楽しみながら、簡単に見ることのできない世界に想いを馳せていたのでしょうね。
強肴以外の料理は?
懐石料理には強肴以外の料理があり、食べる順番もあります。
- 先付
- お凌ぎ
- お椀
- 向付
- 八寸
- 焼き物
- 炊き合わせ
- ご飯
- 水菓子
しかし最初のうちは、これら全ての順番を覚える必要はありません。
基本的には料理が運ばれてくるので、それらを順番にいただきましょう。
よく茶道の稽古をしていて聞くのが「八寸」でしょうか。
八寸の由来は、料理が盛り付けられている器にあります。
昔の長さを表す単位で一寸は「3センチ」にあたり、八寸は24センチになります。
八寸という料理は、24センチ四方の器に盛り付けられた料理を指します。
もともと神様に献上する器でしたが、千利休が茶道の世界に取り込んだと言われています。
八寸はたいてい2種類の料理が使われており、器の右上に山の幸を置き左下には海の幸を置きます。
珍しい材料が手に入ったときは、例外として三品にもなります。
茶事では八寸のときに初めて酒が提供されることから、楽しむための作法があります。
【Q&A】強肴のよくある質問
それでは「強肴」について、さらに詳しく説明していきます。
茶懐石だけでなく、一般的な和食の懐石料理についても説明していますので、ぜひこちらで勉強してください。
懐石料理・日本料理の強肴のメニューとは?
強肴の具体的なメニューは
- 酢の物
- あえもの
- 炊き合わせ
などがあります。
それぞれ代表的なもので、どんな食材を使われているか説明します。
酢の物
酢の味をメインにした料理です。
野菜などがよく使われますが、家庭的な料理ではタコ・ワカメ・きゅうりなどが人気です。
料理において「酢」はあまり使われておらず、酢の摂取不足が問題視されていることもあります。
しかし「五味」と呼ばれる日本料理における、五つの味の要素には「酢」は入っています。
ちなみにそのほかの味には
あまい | すっぱい | しょっぱい | にがい | うまい |
---|---|---|---|---|
甘 | 酸 | 塩 | 苦 | 旨 |
といったものがあります。
炊き合わせ
炊き合わせは、様々な食材を一度に煮て料理したものを言います。
煮合わせとも呼ばれており、みなさんには煮物という言い方の方が分かりやすいでしょうか。
お正月に出される筑前煮やにしめなども、炊き合わせの一種です。
強肴で肉が出ることもある?
強肴に限らず、懐石料理そして日本食において肉は一般的ではありません。
特に懐石料理は仏教徒の食事という意味もあり、その質素さを紛らわせるために「温石」(おんじゃく)という石を温めて懐に入れ、飢えをしのいだという意味もあります。
料理をする段階から食べ方、食器の扱いまでもが修行という考え方に沿っており、当然仏教の影響を強く受けた茶道も同じ意味になっています。
こうしたことから本格的な懐石料理や茶懐石で肉が出ることは、ありません。
しかしお店を見てると「会席料理」(かいせきりょうり)といったジャンルも、存在します。
おなじ「かいせき」という意味がありますが、会席の場合は「宴会」という意味があり、懐石料理に比べて作法や食材に制限があまり存在しません。
宴会ということでお酒がメインに考えられており、当然肉もメインに出てくるでしょう。
その反対にあるのが懐石ということになりますが、会席と混同して使われていることもあります。
「肉懐石」という一見すると不思議な意味になる料理もあるくらいですから、茶道の料理を意味する場合は「茶懐石」仏教徒が修行の意味を込めて食べる食事は「精進料理」(しょうじんりょうり)と言った方が分かりやすいですね。
それでも仏教徒は肉が食べたい?
それでもやはり、肉の美味しさもあります。
そういった仏教徒のために精進料理では「もどき料理」というものがあります。
これは肉の食感や味に似せつつも、肉は材料に一才使われていない料理のことを指します。
よく食べられているのが「がんもどき」です。
これは豆腐を潰して、ニンジンやレンンコンなどを合わせて油で揚げた料理です。
「雁」(がん、かり)という、カモの一種の鳥が存在し、肉食文化が薄い日本でも食べていたと言われています。
特にキジが肉の中では高貴な存在とされており、天皇の調理場において死体のまま置くことが許されていたのは唯一「キジ」のみとされていました。
そのほか中国や台湾では、湯葉を肉に見立てたり豆腐をうなぎの蒲焼きのように料理したものがあります。
こう考えると、とてもヘルシーですよね。
修行の意味を込めて食事をする人はほとんどいませんが、ダイエットの代替食としてはとても有効ですね。
まとめ
いかがでしたか?
今回は茶懐石料理と、その中に出てくる「強肴」について紹介しました。
もしかしたら茶道に「お酒」が出てくるのが、意外だったという方もいるでしょう。
とある有名な師匠は「日本酒の後に頂く濃茶は格別だ」と言ってるくらいなので、そんなに不思議な話ではないのかもしれません。
濃茶は苦いイメージですが、そんな中にもほのかな甘味があります。
お酒を楽しんだ後は甘いものを欲しがると言われがちですが、そんな僅かな濃茶の甘みをお酒の力で感じ取ることができるのでしょう。
また肉や魚をほとんど使わないことから、今注目されているSDGsやヴィーガン食とも懐石料理は相性が良さそうですね。
一つの道具を大切に使って何百年も守ってきたり、余計なものは使わず「足るを知る」という禅的な考えのものに行われる茶道は、自然と日本人が昔から続けてきたエコロジーな生活とも言えるでしょう。
当然強肴以外の懐石料理にもそれぞれ意味があり、それらを考えながら食事をするとさらに楽しく頂くことができます。
その他の料理や作法については、また順次ご紹介していきます。
それではまた次回の記事で、お会いしましょう。
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