歌舞伎というと、多くの人が連想する特徴的な表情のひとつが、見開いた目を寄り目のようにして睨んでいるものだと思います。
でも、実はあの表情は、限られた歌舞伎役者しか舞台で披露することができないというのはご存じですか?
今回は歌舞伎の寄り目のような表情「見得」「睨み」について
など、寄り目のようで寄り目ではない、歌舞伎の特徴的な目の使い方やその意味などを徹底的に解説していきます。
歌舞伎の寄り目の名前や意味は?
歌舞伎の特徴ともいえる寄り目で睨みつけるような目つきには、「睨み」と名前がつけられています。
素人にはなかなか真似できない技のため、江戸時代には「(市川)團十郎に睨まれると、無病息災で過ごせる」と言われ、厄除けや邪気払いの効果があるとされてきました。
他にも、睨みには
- 天と地を同時に見渡している
- 客席全体を見渡している
- 光を受けるのではなく、反射させている
といった意味があると言われています。
片目だけ寄り目で左右が違う?
にらみは、寄り目のように見えますが、実は左右異なる方向を見ているのが特徴です。
右目が正面を見ている時は左目は寄り目、右目が寄り目の時は左目は正面というように、左右の黒目の位置が違っています。
このように、睨みが出来るようになるには集中力と訓練が必要とされるため、めずらしくありがたいものとされてきたんですね。
歌舞伎の見得・にらみとは?イラストで解説
見得
引用元:gettyimages
見得とは演目の一場面において、役者が舞台上でポーズをとって静止するものを言います。
特徴的なポーズや音で、芝居に緩急をつけることで、映像でいうところのクローズアップ効果を生むのです。
睨み
引用元:gettyimages
睨みは、演出というよりは、睨みそのものが注目されるパフォーマンスです。
ここからは数多くある見得・睨みの種類について詳しくご紹介します。
歌舞伎の見得の種類は?【画像あり】
見得には、その表現方法にいくつか種類があり、役者が1人で行うものもあれば、2人または複数人で行うものもあります。
今回紹介するのは、数ある見得のなかでも代表的なものです。
元禄見得
引用元:勧進帳の元禄見得
左足を踏み出し、左手で刀を握り、右手を後ろへ張るポーズが特徴。『暫(しばらく)』『矢の根』という演目で見られます。
不動の見得
引用元:ステージナタリー
不動明王をイメージしたポーズをとります。『不動』『鳴神(なるかみ)』『勧進帳』などの演目で見られます。
柱巻きの見得
引用元:歌舞伎用語案内
柱や刀などに巻き付くようにして行うダイナミックな見得です。特に『鳴神』の鳴神上人の見得は名高いと言われています。
石投げの見得
石を投げるように左足をあげ、右手を上にあげて手のひらを開くポーズ。『勧進帳』の弁慶がすることで有名です。
天地の見得
引用元:ウィキペディア
2人の役者が、異なる高さでポーズを決める見得です。高さを利用することで、世界観をより広げる効果があります。
引っ張りの見得
複数人の役者が、主役を中心にして心理的に引き合っているように見せる見得。幕切れに見られることが多いです。
絵面(えめん)の見得
舞台上の役者全員が動きを静止し、一枚の絵のようになる見得。ラストを盛り上げるために幕切れで使われることが多いです。
最も特別な睨みの意味とは?
数ある見得のなかでも、「睨み」は特別なものとされています。
なぜなら、どの役者でもできるわけではなく、成田屋と呼ばれる市川團十郎家にのみ受け継がれるお家芸で、現在舞台上で披露することができるのは、十一代目市川海老蔵のみです。
さらに「睨み」は基本的に初舞台や襲名披露など特別な場のパフォーマンスとして披露されます。
ゆえに特別なものとされ、「ぜひ睨まれたい!」と願うファンも多いのです。
歌舞伎のにらみのやり方は?
睨みは、片目が寄り目で、もう片方は正面を見るという非常に特殊な目の使い方をします。
最初は両方の目で正面を見て、徐々に片方の目だけを寄り目にしていくのがいいでしょう。
歌舞伎の見得のやり方を動画で解説
歌舞伎の見得Q&A
Q:見得をする時のセリフや ポーズは決まってる? |
A :役によってある程度決まっているが、 登場シーンやセリフの合間にする見得も。 |
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Q:見得の六方・勧進帳とは? | A :六方とは歌舞伎における歩き方の技術。 特にダイナミックな動きの勧進帳の「飛び 六方」は人気が高い。 |
Q:見得をする時の掛け声は決まってる? | A :主に役者の屋号。「〇〇屋!」など。 |
Q:見得をする時に鳴っている音は何? | A :木の板に木を打ち付けて鳴らすイメージの ツケという音を出す道具。 |
Q:歌舞伎役者によって目力が違う? | A :どの役者も目で表現する技術があるので、 それぞれ特徴のある目力を持っている。 |
まとめ
歌舞伎の特徴的な「睨み」の目はただの寄り目ではなく、高い技術と伝統が凝縮されたものだったんですね。
また、睨みには厄除けなどの願いも込められている「ありがたいもの・神聖なもの」という位置づけもわかっていただけたと思います。
もちろん、睨みに限らず、さまざまな見得も歌舞伎役者の腕の見せ所なので、演目や役者ごとに見比べてみるのもおすすめです。
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