落語「藪入り(やぶいり)」は親子の情を扱った古典人情噺です。
「藪入り」という言葉は現代ではほぼ死語になっていますが、落語「藪入り」の内容は現代人が聞いても十分理解できる内容です。
この記事では落語「藪入り」のあらすじ・オチ・名人・教訓などについて解説します。
落語「藪入り」は人情噺が好きな人や育児経験がある方には心に刺さる内容の落語ではないでしょうか。
それではさっそく見ていきましょう。
落語「藪入り」とはどんな演目?
「藪入り」とは、かつて商家などに住み込み奉公していた丁稚や女中などの奉公人が実家へ帰ることのできた休日のことで、旧暦1月16日と旧暦7月16日が藪入りの日とされていました。
藪入りの語源は藪の深い田舎に帰るからという説や「宿入り」(実家へ帰る)からの転訛(てんか)などの説もあります。
関西地方では六のつく日に行われることから「六入り」との呼び名もあり、関西地方・鹿児島地方ではオヤゲンゾ(親見参)とも言います。
落語「藪入り」は丁稚奉公をしている息子が三年ぶりに実家へ藪入りで戻ってきて両親と久しぶりに交流する人情噺です。
滑稽噺「お釜さま」を初代柳家小せんが「鼠の懸賞」に改作し、さらに三遊亭金馬が人情噺「藪入り」に改めた演目とされています。
落語の「藪入り」のあらすじ
明治時代に流行り病の「ペスト」が流行し、警察はペストの感染元とされていた鼠を捕まえると懸賞金を出していました。(懸賞金付きの駆除届け出制度)
商家に奉公している少年・亀吉が三年ぶりに実家に帰る藪入りの前日の夜、息子の帰りを待ちきれない父親はソワソワして寝ることができません。
亀吉の父親は息子が帰ってきたら鰻や天ぷら、シャモ、寿司、汁粉などをお腹いっぱい食べさせてやりたいとお思っていますが、「そんなに食べられませんよ」と亀吉の父親は妻にたしなめられます。
亀吉の父親は息子に会いたくて仕方がない様子で妻に言います。
「亀吉が帰ってきたら湯(お風呂)へ行かせて、そのあとは本所、浅草、ついでに品川、横浜、江ノ島、鎌倉、名古屋の金のしゃちほこ、伊勢神宮、大阪、京都、讃岐の金毘羅さんへ行って…」
「そんなに回れませんよ」と妻(亀吉の母親)に冷静に諭されます。
藪入りの当日、息子の亀吉は実家へ戻ると立派に挨拶をして両親を驚かせます。
両親も大喜びで3年ぶりの我が子を迎え入れます。
身長の伸びた息子を見て涙する母親。
母親は湯に出かけた亀吉の財布に高額紙幣が3枚入っているのを見つけ、驚きます。
奉公先から頂く小遣いにしては高額すぎるため、母親は息子・亀吉が盗みでもしたんじゃないかと疑念を抱きます。
亭主(亀吉の父)に報告すると、亀吉の父は息子がが盗みを犯したと思い込み、亀吉が湯から帰ってくるのをイライラしながら待ちます。
帰ってきた亀吉に父は「この金はなんだ」と問い詰めます。
亀吉は財布を勝手に見られたことにカッとして「人の財布を勝手に見るなんて下衆だよ。だから貧乏人は嫌なんだ」と反論したので父は怒り亀吉を殴り飛ばします。
母親が「じゃあこの金はどうやって手にしたんだい?」と泣きながら問いただすと、亀吉は「そのお金は盗んだものではなく、店で捕まえた鼠を警察に持って行ったら懸賞が当たって、店の主人に預けていたお金を今日の藪入りのために返してもらったんだ」と答えます。
両親は安心するとともに、我が子の徳と運を褒めたたえます。
父親は「これからもご主人を大事にしろ」と亀吉に教え、次のように言います。
「これもご主への忠(チュウ)のおかげだ」
落語「藪入り」のオチは?【ネタバレ】
落語「藪入り」のオチは「これもご主人への忠(チュウ)のおかげだ」
落語「藪入り」は主に江戸の落語家がかける演目で上方ではやり手の少ない演目です。
上方の桂福団治は落語「藪入り」を十八番にしていますが、オチは付けずに演じています。
落語「藪入り」の教訓とは?
当時(明治時代)は10歳前後から奉公に出されるそうので、まだまだ甘えたい盛りの子どもは強制的に親元を離れて自立を促されます。
現代の感覚では10歳はまだまだ子供ですし、当時の子どもたちにしても10歳前後で親元を離れて暮らすのはさぞかし寂しかったことでしょう。
子どもも寂しいですが親御さんだって寂しい思いをしていたと思います。
「藪入り」で久しぶりに我が子と再会し、すぐにまた奉公先へ戻る我が子を親はどんな気持ちで見送ったのでしょうか。
落語「藪入り」を聞いて家族と一緒に暮らせる幸せに思いを巡らし、家族の有難みを再確認することも大切なことかもしれません。
落語「藪入り」の名人!十八番なのは誰?【動画あり】
それでは落語「藪入り」の名人を紹介します。
三遊亭金馬の落語「藪入り」
三代目 三遊亭金馬の落語「藪入り」です。
名人金馬の絶品の落語「藪入り」は必聴です。
落語「藪入り」!おすすめの名演を紹介【動画あり】
引き続き落語「藪入り」の名演を紹介します。
五代目 三遊亭円楽の落語「藪入り」
五代目 三遊亭円楽の落語「藪入り」です。
人情噺に定評のあった五代目円楽。
聞きとりやすい落語で落語初心者から落語マニアまで万人に愛されました。
桂福団治の落語「藪入り」
上方落語で人情噺といえば桂福団治の右に出る者はいないでしょう。
三遊亭金馬の流れをくむ桂福団治の落語「藪入り」は絶品です。
舞台はもちろん大阪に変更されています。
柳家小三治の落語「藪入り」
人間国宝・柳家小三治の落語「藪入り」です。
名人の至芸を是非堪能してください。
春風亭一之輔の落語「藪入り」
若手真打で今一番波に乗っているのは春風亭一之輔ではないでしょうか。
滑稽話のイメージが強い春風亭一之輔ですが、腕のある人はどんな演目も見事に料理します。
落語「藪入り」の台本!内容をテキストで解説!
落語「藪入り」をオチをつけてきちんと落語として終わらす演者と三遊亭金馬や桂福団治のようにオチは付けずに人情噺の余韻を大切にする演者に分かれます。
どちらも噺の流れは同じですが、泣かせる噺として演じるか、滑稽噺に軸足を置いたまま演じるかで雰囲気はかなり変わります。
落語「藪入り」をいろんな噺家で聞き比べてみるのも面白いですよ。
まとめ
この記事では落語「藪入り」のあらすじ・オチ・名人・教訓などについて解説しました。
人情噺には親子の情愛を描いた作品が多いですが、落語「藪入り」はその代表格といっても過言ではないでしょう。
人情噺をまだ聞いたことがない方は落語「藪入り」から聞き始めるのをおすすめします。
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