落語「らくだ」という演目は上方落語(大阪)の六代目笑福亭松鶴が十八番にしていた演目です。
現在でも「らくだ」は大ネタ中の大ネタで、実力のある噺家しか演じることが難しい演目と言われています。
落語ファン、落語通なら必ず聞いておきたい演目、それが「らくだ」です。
それでは、落語「らくだ」の世界観や魅力をたっぷり紹介いたします。
落語の「らくだ」とはどんな演目?
落語「らくだ」は、主人公「らくだ」の死体を発見するところから噺が始まります。
落語「らくだ」を聞くと、小心者だが酒乱の人や、はみだし者の人間の弱さや悲しさや哀れさ、昔の長屋の情景や当時の近所付き合いの雰囲気などを笑いながら学ぶことができます。
落語の「らくだ」のあらすじ
以下のあらすじは、上方落語の(六代目)笑福亭松鶴の「らくだ」の構成・演出を元にしています。
大阪の野獏(のばく)という地域に住んでいる、「らくだ」と異名をとる乱暴者。
兄貴分のヤタケタの熊五郎が「らくだ」の長屋に立ち寄ると、「らくだ」がフグに当たって死んでいました。
熊五郎は、「らくだ」の兄貴分として、せめて葬式の真似事でもしてやりたいと思うのですが、懐に金はありません。
そこで、長屋を通りがかった小心者の紙屑屋を脅して、「らくだ」の通夜の準備を手伝わせます。
まず紙屑屋に長屋の家主の家に行かせて、「らくだ」の葬式用の酒と肴を運ぶように交渉させましたが、家主は嫌がって断りました。
理由は、「らくだ」は生前、一度も家賃を払ったことがなく、家主が家賃の催促に行くと刃物を持って追いかけ回した過去があったからです。
酒肴を持ってこない家主に腹を立てた熊五郎は、「らくだ」の死骸を紙屑屋に背負わせて家主の家に行き、家主の目の前で「らくだ」の死骸にカンカン踊りを踊らせます。
まるで文楽の人形のように。
死人のカンカン踊りを見せられた家主は、怖がって酒と肴を運ぶ約束をします。
酒も肴も揃い、熊五郎と紙屑屋が酒を飲みはじめると、はじめは怖がって嫌がっていた紙屑屋の態度が急変し、立場が逆転していきます。
小心者の紙屑屋は酒を飲むと気が大きくなるタイプ、いわゆる酒乱だったのです。
酒が入って気が大きくなった紙屑屋は、やたけたの熊五郎に対しても偉そうにものを言い命令をします。
「家族もいてるんやろ。ボチボチ仕事にいったらどうや」という熊五郎の忠告にも耳を貸さずに、紙屑屋は酒を飲み続け、へべれけ状態。
たらふく酒を飲んだ紙屑屋は、熊五郎と協力して「らくだ」の死骸を棺桶がわりの漬物樽に押し込んで、千日前の火屋(焼き場)まで運びます。
途中、橋の上で漬物樽の底が抜け、「らくだ」の死骸を道に落としてしまいますが、二人は気付かずに空っぽの漬物樽を担いで、そのまま千日前の火屋(焼き場)へ。
千日前の火屋(焼き場)へ着いてから、漬物樽の底が抜けていることに二人は気が付き、「らくだ」の死骸を拾いにいくため、来た道を戻ります。
二人は橋の上で、酒に酔って裸で寝ている願人坊主(がんじんぼうず)を「らくだ」の死骸と間違えて拾いあげ、もう一度千日前の火屋へ運び入れます。
焼き場の穏亡(おんぼ)が酒を飲みながら炭に火をつけると、なんと焼き場の中から人間の声。
「あつい、あつい、あつい」
「なんじゃ、死人(しぶと)かと思ったら生きとるやないかい。酔っ払いかい。えらい酔うとるな。もう少しで焼くとこやったがな。気いつけんかい。」と穏亡(おんぼ)。
「あつい、あつい、あつい、おい、ここはどこじゃ」
「ここはどこじゃて、千日前の火屋(ひや)じゃがな」
「ひやか。冷酒(ひや)でもかまへん。もう一杯もってこい」
※穏亡(おんぼ):火葬場で死者の遺体を荼毘(だび)に付し、墓地を守ることを業とした者を指す語。
落語の「らくだ」のオチ
落語「らくだ」のオチは「冷酒(ひや)でもかまへん、もう一杯もってこい」です。
オチの火屋(ひや)という言葉は現在では死後になっていますので、噺家は落語に入る前のマクラ(トーク)で簡単に説明することが多いです。
落語「らくだ」は約1時間はかかる長講ですが、最後までやると陰惨な描写もありお客が離れることもあるので、寄席などでは30分くらいに短縮して演じられます。
短縮バージョンの「らくだ」は、「らくだ」の死骸を漬物樽に押し込むシーンをオチにするパターンが多いです。
上方の演出は江戸の演出よりもえげつない演出が多かったようで、上方では、「らくだ」の死骸を漬物樽に押し込む前に「らくだ」の頭を丸めるのですが、紙屑屋が「らくだ」の髪の毛をむしり取りながら酒を飲んでいるので、「らくだ」の髪の毛が口の中に入り、喉にひっかかり、口から引き出すという演出があります。
東京では剃刀で剃る演出に変えています。
落語・らくだの教訓を解説
落語「らくだ」は主に、
- 普段は小心者だが酒乱の紙屑屋
- 見た目は怖いが意外と面倒見が良く優しいヤタケタの熊五郎
の二人の会話で噺は進んでいきます。
「らくだ」の教訓は、「人は見かけによらない」ということでしょうね。
人間はどうしても見かけで判断してしまいがちですが、見かけだけでは判断が難しいというのが「らくだ」を聞けばよく分かると思います。
らくだ(落語)の感想!嫌いな人の意見とは?
「らくだ」が嫌いという意見は女性に多いようです。
理由は、死体を踊らせたり、死体の足を折ったり、死体の髪の毛をむしったり、とにかく内容がグロテスクだからでしょう。
落語のらくだの名人!十八番なのは誰?【動画あり】
それでは、落語「らくだ」の名人、十八番を紹介いたします。
五代目柳家小さんのらくだ
人間国宝の(五代目)柳家小さんの「らくだ」です。
登場人物の「了見になる」ことが大切だと弟子に伝えていたそうです。
六代目笑福亭松鶴のらくだ
「らくだ」といえば(六代目)笑福亭松鶴です。
「らくだ」は松鶴の十八番で立川談志や古今亭志ん朝も認めていました。
人間国宝 桂米朝のらくだ
戦後の上方落語を守り、育て、繁栄に導いた桂米朝。
剛の松鶴と柔の米朝とよく比較されますが、桂米朝の「らくだ」も絶品です。
【動画】落語のらくだ!おすすめの名演を紹介
上述した名人たち以外にも「らくだ」の名演は存在します。
さっそく見ていきましょう。
立川談志の「らくだ」
熱狂的な談志信者もいれば、アンチ談志も存在しましたが、落語通・演芸通からは絶対的な信用がありました。
古今亭志ん生の「らくだ」
古今亭志ん生といえば「酒」と「貧乏」が代名詞のような感じですが、志ん生の酒ネタはどれも絶品です。
「らくだ」もお薦めですが、志ん生の「替り目」という演目は必聴ですよ。
桂文珍の「らくだ」
いま、日本で一番上手い落語家と言われています。
一流のプロの話術で客席はいつも大爆笑です。
現代の名人芸を是非聞いてみてください。
落語のらくだ!台本の内容をテキストで紹介
基本的に古典落語には台本は存在しないので独自でアレンジが可能です。
噺家の中には主人公の「らくだ」が死ぬ前日から噺を創作し、フグを安く手に入れて料理するシーンから演じる人もいます。
主人公がはじめから死んでいるという設定の噺はおそらく「らくだ」だけではないでしょうか。
まとめ
落語「らくだ」というのは、酔っ払いの酔態だけで約一時間を一人で演じるわけですから、噺家の技量によっては退屈な場合もありますし、好き嫌いが分かれる演目ではあります。
落語「らくだ」は、落語初心者の方にはあまりお勧めしませんが、好きな噺家や贔屓の噺家がおられる方は必聴ですよ。
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